ヘリコバクター･ピロリ菌4

胃に棲みついて何をするか

ではいったい、このヘリコバクター・ピロリ菌は、強酸の胃の中で
どのように棲みついているのだろうか。そして胃にどのような障害
を与えるのだろうか。さて、このあたりからが、ヘリコバクター・
ピロリ菌を語る難しさである。

現在、彼らが胃の病、ことに胃潰瘍に著しい影響を与えることにつ
いては、ほぼ医学界の基本的な認識になっている。が、では彼らが
胃の粘膜をどのように破壊して胃潰瘍を起こすのかについては未だ
確定的な説が打ち出されていない。これは実験動物にヘリコバクタ
ー・ピロリ菌を感染させることが容易でなかったために、詳しい実
験観察ができなかったからだ。だからといってマーシャルのように
人体実験ばかりをするわけにもいかない。

だがその後、サル、スナネズミ、無菌ミニブタなどに感染させるこ
とができるようになり、またマウスに感染する株も見いだされてい
る。彼ら実験動物のおかげで、やがては、ヘリコバクター・ピロリ
菌の悪事がすべて白日の下に曝されることになるだろう。まずは、
そのために犠牲となる動物たちの冥福を祈りたい。合掌。

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃の粘膜に張りつくようにして棲ん
でいる。そもそもこうしたへばりつき方が曲者なのだが、その話は
いずれしよう。へばりついた彼らはウレアーゼという酵素によって
尿素を分解しアンモニアをつくる。つまりこのアンモニアで胃酸を
中和しつつ彼らは強酸である胃の中に棲みつくのだ。

そして空洞化毒という毒素を出して胃の粘膜細胞を空洞化させたり
粘膜細胞の中の粘液顆粒というものを食べてしまう。また彼らには
白血球の一種である好中球を活性化する性質がある。この好中球は
生体を防御するための炎症性細胞のひとつである。だからヘリコバ
クター・ピロリ菌が胃の中に棲みつくと活性化された好中球が勢い
余って胃を攻撃し、胃の粘膜に炎症をもたらすことになる。

そうした作用の結果、著しく変質したり壊死してしまった粘液細胞
が、それまでいた場所からこぼれ落ち、粘膜下組織が剥き出しにさ
れてしまうことになる。ふだん胃は、その粘膜細胞によって粘膜を
つくり、強力な胃酸から自分を守っているものだが、この粘膜組織
が剥離してしまった後へ、ビフテキを溶かしてしまうほどの胃酸が
襲ってくるのだからたまらない。胃は、自分の胃酸で自分の胃壁を
溶かしはじめるのである。恐ろしいことだ。

････とまあ、まことしやかにヘリコバクター・ピロリ菌が胃を攻撃
する様子を描いてみたが、実はこれは、諸説を合わせてイメージ化
したものに過ぎないことをお断りしておく。例えば、空洞化毒はす
べてのヘリコバクター・ピロリ菌が出すものではなく、ある特定の
遺伝子を持ったものだけが出す、などと、詳細をきちんと語ろうと
すれば、諸説の根拠などを含めて解説しなくてはならない。そこの
ところは、偽医者Dr.Stomacの独断でまとめたこととしてお許しい
ただきたい。しかし嘘はいっておらぬので、ご安心のほどを。

[5]へ続く