イカコラム2

ディズニーも知らないイカの秘密

本文で記すことができなかったイカの口についてここで触れておこ
う。イカの口は、10本の足に囲まれた部分に位置し、口球と呼ばれ
る丸い筋肉の塊で覆われている。この中には俗に｢からすとんび｣と
呼ばれる鳥の嘴のような形をした２枚の｢顎板(がくばん)｣がある。

顎板は巻き貝にもあるのだが、巻き貝のそれは極めて薄く、しかも
左右に位置しているのに対して、イカの場合は上下に展開し、しか
も先が鋭い。このうち上顎板は細身でカーブも緩いことから｢から
す｣､下顎板は強く曲がって猛禽類の嘴を思わせることから｢とんび｣
と呼ばれている。あわせて｢からすとんび｣である。

かつてウォルト・ディズニーが映画化した｢海底二万哩(マイル)｣に
おいてノーチラス号を大イカが襲う場面があった。このイカは、腕
や目玉、｢からすとんび｣に至るまで、モーターの力で本物そっくり
に動く逸品であった。

ところが､かちかちと音を立てながらノーチラス号に迫る｢からすと
んび｣は､鳥の嘴のように上顎が下顎を覆う格好に作ってあった。し
かし本物のイカは、すべて下顎の方が上顎より前に出て、いわゆる
｢受け口｣の状態になっている。さすがのウォルト・ディズニーもそ
こまで気が付かなかったようで本来白眉ともなるべきシーンで画竜
点睛を欠いてしまったことになる。

余談だが、｢からすとんび｣は獲物を食いちぎる部分だけに、当然そ
れを動かす筋肉である口球も発達している。それ故、口球の干物は
｢イカで最も美味しい｣といわれ、酒の肴としても好評である。