サウンドマジック5

音響ルミネセンスが拓く世界

最後に現代科学の最先端が取り組む音の研究のひとつに触れてみよ
う。それは｢音響ルミネセンス｣と呼ばれるものである。

水に、ある強さ以上の音波を与え続けると水中に気泡が生じ、その
気泡が、やがて半径50μｍ(マイクロメータ)から0.5μｍにまで収縮
し、音波のエネルギーを一兆倍にも凝縮する。そして、50兆分の１
秒という短いフラッシュを発する。

この時、気泡は収縮と膨張を繰り返すためにフラッシュが１秒間に
３万回も点滅するように見える。このような音のエネルギーで発光
する現象を｢音響ルミネセンス｣と呼ぶ。

音響ルミネセンスを発する気泡は、その体積が100万分の1にまで減
少する。この時、気泡内部の温度は瞬間的に10,000℃を越えるとい
われる。これは太陽の表面温度よりも高い温度である。

現在、音響ルミネセンスによる高温の発生は、まだ安定的ではなく
しかも分からないことが多いとされる。しかし将来的に、さまざま
な分野における活躍が可能になると目されている。

最も有力視されているのが核融合である。気泡内で核融合を起こし
そのエネルギーを取り出すことができれば、人類のエネルギー問題
は一挙に解決されてしまう。まさにサウンドマジックである。

またこのエネルギーを船の推進力に使えないかという研究も進んで
いる。これが実現すれば、新しい船の出現も夢ではなくなるかもし
れない。その船は、造波抵抗との闘いを乗り越え、新しいエネルギ
ーで現在の船の速度を大幅に超えるものとなる可能性もあるのだ。

また、少量で効率の高いエネルギー源と組み合わせれば、エネルギ
ーを生み出す媒体である｢水｣は海原に無限にあるわけだから、やが
てはほとんど燃料補給をすることなく大洋をいつまでもどこまでも
走り続けることができるようになることも考えられる。

こうした船の誕生は、現代社会の大きな課題であり、今後ますます
大きな課題となるはずの流通問題に重大な革命をもたらすに違いな
い。さらには、夢のような船の旅も実現してくれるかもしれない。

カラスの鳴き声から、果ては核融合にまで話は大風呂敷的に広がっ
てしまった(^^ゞしかしふだん何気なく耳にしている音の世界には
不思議なサウンドマジックがいくつも潜んでいる。

そんな楽しい世界の話題にまた触れることがあったら、ここに記し
たいと思う。また、そうした話題について詳しい方は、ぜひ情報を
お寄せいただきたくm(_ _)m

[データ]
｢ちんちん千鳥のなく声は｣(山口仲美著／大修館書店)
｢音の百科｣(松下電器音響研究所編／東洋経済新報社)
｢音の科学｣(難波精一郎他著／朝倉書店)
｢日経サイエンス｣(1994･2月号｢1994年科学の挑戦｣)
｢日経サイエンス｣(1995･4月号｢音響ルミネセンス｣)