夢幻花4

バイオテクノロジー

夢の花を作ろうとするバイオテクノロジーのひとつに、植物の一部
から、その植物全体を再生しようとするものがある。その前提にあ
るのが、無菌栽培や組織培養と呼ばれる技術である。

受精体は、動植物を問わず一般に分裂を繰り返して完全な個体を形
成する。これを｢分化全能性｣と呼ぶ。

動物の場合、受精体がいったん分裂しはじめて細胞が個体における
それぞれの機能を持ち始めると、その細胞からは元の完全な個体を
再生する能力が失われてしまう。ところが植物にあっては植物体を
構成している細胞のひとつひとつからでも元の個体の全体性を作り
出すことが可能なのである。

すなわち、植物個々の細胞には、受精体と同様の分化全能性が秘め
られているのだ。このことは、例えていえば、昨夜切った爪から翌
日もう一人の人間ができあがるようなものである。植物の持つ不思
議な性質のひとつといえばいいだろうか。

ではなぜ、植物にだけ個々の細胞に分化全能性が見られるのだろう
か。その理由は定かではないといわれる。しかし素人の思いつきと
していえば、これは遺伝子が植物に与えてきた生き残り戦略のひと
つなのではないだろうか。その場から動くことのできない植物にと
って、一個の細胞からでもその全体再生が可能な能力を潜在的に持
つということは、それだけ生き延びるための選択肢を増やすことに
なるのではないかと考えるからである。

もっとも自然界で一個の細胞から全体の再生が普通に行われている
わけではない。単純に植物の細胞を取り出して培養しようとしても
カビやバクテリアなどの繁殖により、植物組織は栄養を盗られてし
まうか、それらの出す毒素で死滅してしまうだろう。そこで必要と
されてくるのが無菌培養や組織培養という技術である。

この技術によれば、細胞は培地の上で増殖してカルスと呼ばれる不
定形の細胞塊となり、そこから植物の全体を作り出す元となる｢胚｣
が形成されてくる。培養の条件さえ整えば、細胞１個からでもこう
したプロセスは十分に成り立つ。

こうした技術を用いて次のようなことが可能となる。例えばウィル
スに感染した個体から感染のない細胞を取り出し健全な個体として
再生することができる。また短期間に多数の個体を増やすことも可
能だ。計算上では、ひとつの組織から数百万個体にまで増やせるこ
とが分かっている。

このようにして作られたクローンは遺伝的に同じ個体群であるとこ
ろから、高級種の花や果物などをこの手法で容易に再生してつくり
出すことができる。例えば手ごろな価格で、コチョウランやメロン
が手に入るようになるというわけだ。

[5]へ続く