ふたつの魂魄物語

二つの魂魄物語
2002/06/25

最近、続けて読んだ本が、実は、偶然ながら面白いつながりがあり
ました。いずれも｢お化け｣のお話です(^o^) っていうとおどおどろ
しい妖怪話のような感じがしますが、どちらかというと地上に残さ
れた魂魄のお話なのです。ひとつは、池上永一著｢風車祭(かじまや
ー)｣、そしてもうひとつが宮部みゆき著｢あかんべえ]です。前者は
沖縄石垣島を舞台にした小説、後者は σ(^^ )の好きな宮部の江戸
ものです。どちらも面白い小説でした。

ネタばれにならない程度にお話しますと、どちらも脇役のトップが
地上に残された魂魄の話なのです。そして主役がどちらも思春期の
こども、というか、大人になりかけの少年と少女。まったく異なっ
た物語なのに、これだけ設定が似ていて、しかも魂魄を最後に浮か
ばせるまでの物語という意味でもよく似ています。偶然ながら、こ
んなに趣の似た小説を続けて読んだのは初めてかもしれません。別
に意識して選んだわけではなく、偶然だったのです。ひょっとする
てぇと、魂魄に呼ばれちまったかな(^o☆)＼ｺﾝ!!

｢風車祭]の方は、なんだか不思議な魅力に溢れた小説でした。沖縄
の離島が舞台なのですが、南国的なフォークロアがふんだんに取り
込まれていて、しかも、ウチナァー気分たっぷりののんびりした作
品です。しかし物語そのものは、現代小説の口調で書かれていまし
て、ウチナァー的な気分との妙なギャップが可笑し味に昇華してい
て、そのあたりは作者の力量なのだろうと思います。

｢あかんべえ｣は、例によって宮部の達者なストーリーテリングぶり
にあっというまに読まされてしまいます。しかし地上に留まった魂
魄への愛情溢れる憐憫、そしてその先にある神仏へのひとつのテー
ゼは、物語後半、というか最後に一気に語られて、物語全体に対す
るカタルシスを生み出しています。やはり、さすがです(^-^)

どちらの話でも、お化けというか地上に留まった魂魄を見ることが
できる者は、限られています。前者では生きながら魂を落としてし
まった者。って書くとえらく面妖ですが、実は沖縄では｢マブイ｣と
呼ばれる魂魄を落としてしまうことはよくあることだとされている
のです。このあたりの面白さは、作品を読んでいただく以外にない
かもしれません(^^ゞ無責任ですいませんですm(_ _)m

宮部の作品では、心にわだかまりを持って生きているものは、その
わだかまりを深くして魂魄を留まらせてしまったお化けが見えるの
だと設定しています。この両者を並べてみるとき、ちと、ひとつの
思いに駆られます。それはこういうことです。

お化けを見ることができる人間を、特異に設定しなければならない
ところに、このふたつの物語の近代性があるのだと。もっと無前提
に、お化けが見えてしまったほうが、フィクションとして面白いの
にという思いは、どこか消えませんね。沖縄の離島の人や江戸時代
の人には、みんな見えているでいいんじゃないかと思うんですけど
ね。やはり、作家の近代意識はそれを許さないのでしょうか。それ
とも、読者の近代意識を慮った結果なのでしょうか。

それともうひとつ、両小説を通して感じたことがあります。それは
｢トリックスター｣の存在です。トリックスターとは、その自由奔放
な行為ですべての価値をかきまわす神話的いたずら者のことで、こ
の誕生には、アメリカインディアンに語りつがれるトリックスター
物語を人類学者ラディンが収集し、その後ユングをはじめとする知
性が神話学的・心理学的な分析をおこなってその像を明確にしてき
た経緯があります。なかなか面白い概念なんです(^-^)

わりあい身近なキャラクターでいうとアメリカアニメでよく知られ
ている｢バックスバニー｣なんかはまさにこのトリックスターでしょ
うね。アフリカではなぜか兎がいつもトリックスターの役割を担う
のですが、アメリカのアニメでは珍しい、のかな?!(^^;

｢風車祭｣には、まさにこのトリックスターそのものという役割を演
じる人物が出てきまして、σ(^^ )なんかもう大笑いでした!!(^o^)
｢あかんべえ｣の方には、前者ほどはっきりしたトリックスターは出
てはきませんでしたが、｢あかんべえ｣などというタイトルが示すあ
たりがトリックスター的な雰囲気を基調低音としてもっていて、味
わい深い魂魄たちを楽しませてくれています。

このコラムは、たまたま続けて読んだ２冊の本を｢魂魄｣というキー
ワードで括ってみたまでで、それぞれの作品に対する評価の仕方は
また別にあろうかと思います。お読みになってらっしゃる方の感想
などをお伺いできると、たいへんに嬉しく存じますm(_ _)m