体内金属

鉄を喰らう"食鉄人種"

｢人のからだは金属でできている｣などといえば、ちょっとこけおど
しな始まりだが(^^ゞしかし事実である。今日はそんなお話。でも
その前にまず、鉄を食べる人間の話から聞いていただきたい(^-^)

かつて日本にアパッチ族がいた。日本アパッチ族という。が、同じ
モンゴロイド系であるアメリカ大陸先住民族とは無縁である。日本
アパッチ族の登場舞台は大阪。大坂城近くの、かつて陸軍砲兵工廠
のあったあたりである。ここは戦時中に激しい空襲を受けて戦後は
一大廃虚となった。その地に彼らはいたのだ。

といっても、これは小松左京の処女長編『日本アパッチ族』の中の
話である。この小説は荒唐無稽を装いながら、戦後が抱えた無限の
可能性のひとつを描き出した傑作である。どのように荒唐無稽だっ
たか。ご存じの方も多いはずだが、そこに登場する人物たちは鉄を
喰らう｢食鉄人種｣なのである。彼らを滅ぼそうと攻める軍隊の戦車
に舌なめずりをしながら襲いかかり、これを喰らってしまうのだ。

しかし、人が鉄を喰らうこと自体は、必ずしも荒唐無稽とばかりい
っていられない面がある。小説によれば、彼らは喰らう鉄の6～7パ
ーセントを栄養分とし、その他は体外に出すとされるが、この過程
で鉄中の炭素をはじめとする銅や硫黄、燐などの不純物をも栄養と
してからだに吸収し最後に低炭素の極上鋼として排泄するという。

この低炭素極上鋼へのプロセスは通常、高温炉の中で行われるもの
だが、原理的には有機的なプロセスを用いれば人間の体の中でも低
温度でも行えるはずである。荒唐無稽ならざる所以だ。

まさか、日本アパッチ族ならざる我々が鉄を喰らってこうした代謝
ができるわけではないが、人体に金属類が必要なことは、近年では
比較的よく知られた事実だ。さまざまな機能食品のコマーシャルな
どでにぎやかに喧伝されるようになって、その知識はだいぶ一般化
している。金属の体内における効果もよく知られるようになった。

しかし、30年ほど昔に書かれたこの小説における食鉄という設定が
からだに必要な金属類の吸収を下敷きにしているとことを考えると
少々驚きを禁じ得ない。まだ体内金属の話がそれほど一般的ではな
いからだ。だがこの作品の作者が、小説を書く机上に電卓を持ち込
んだ最初の作家として知られる"科学者"小松左京なら、さもありな
んと思わせるものがある(^-^)

[2]へ続く