友人のPTSD

友人のPTSD
2001/11/06

このことは、ここで書こうか書くまいか迷ったのですが、ＰＴＳＤ
を調べているうちにどうしても書かずにいられなくなって････。も
のを調べることとそれをレポートすることが生業になっているもの
の悲しい性なのかもしれません(>_<) 友人に迷惑がかかることのな
いように心がけて書こうと思います。

新宿のあるバーで呑んでいたときのことでした。男の大人たちが落
ち着いて呑めるシックなバーです。店の一郭には大きなスクリーン
があり、さまざまな映像とともに音楽が流れています。その日は海
外の都市風景がテーマだったのでしょうか、ヨーロッパやアメリカ
の代表的な都市の映像が美しく流れていました。

とどたちの席からはその映像がたまたまよく見え、海外駐在の長い
友人などは、その地の思い出話などを映像をきっかけとして語り出
す、そんな和気藹々とした雰囲気でした。

と、一人の友人が突然｢ちょっと失礼｣といいつつ店の外に出ていき
ました。そして戻ってきたときには明らかに泣きはらした痕跡を顔
に残してたのです。元来、明るく温厚で心遣いも細やかなタイプの
人です。そんな人の、友人たちの和気藹々な空気を破るような表情
は、意外すぎるほど意外でした。思わず、｢どなたか亡くなったの｣
と質問してしまいたくなるような、そんな悲痛な表情でした。

その友人が皆に｢ごめんなさい!!｣を繰り返しながら、申し訳ないけ
ど先に帰るといいだしました。そろそろ自分もと思っていたとどは
同じ方向なのでその人を送りがてら一緒に帰ろうということになり
店を後にしました。その人は｢ありがとう｣といったきりその後、駅
までずっと無言でした。少しでも安心感を与えられればと、とどは
その無言の肩に軽く手を触れ続けていました。

｢少し落ち着きたい｣という言葉に、近くの喫茶店に入りました。コ
ーヒーを飲みながらふと気がつくと、ＢＧＭにはニューヨークをテ
ーマとした音楽がかかっていました。とども聴いたことのある曲で
すが題名は分かりません。やがて、その曲にじっと耳を澄ましてい
たその人が、ゆっくりと口をききはじめました。

あのニューヨークの事件以来、世界貿易センターの映像を見るとこ
うした症状が突然おこるのだといいます。無惨でやるせなくて、抑
えがたい涙が溢れてくるのだというのです。そういえば、店の一郭
にあったスクリーンに何度かその姿が現れていました。その映像を
見て同時多発テロへ話題が飛んだことを思い出しました。

ニューヨークで仕事をすることの多かったその人のことですから、
もしやと思いましたが、必ずしも、あのテロ事件で直接の友人が亡
くなったわけではないということでした。しかし明らかなＰＴＳＤ
がその映像に接するたびにその人を襲うのです。

ＰＴＳＤとは、｢Post-Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ス
トレス傷害｣と呼ばれるものです。アメリカではベトナム戦争の後
に、これに襲われる人々が多く、社会的な問題となったことで広く
知られるようなった心的な症状です。日本でも阪神淡路大震災の後
に、特によく知られるようになったことはご存じの通りです。

このＰＴＳＤの特長は、いつも強くて何事にもへこたれることなく
明るくてはつらつとした人が発病しやすいことだといいます。そん
な記事をあるサイトで見たとき、思わずその人がそうなったことの
理由が深くうなずけるような気がしました。

なぜそういう人が罹りやすいかの理由が、同じサイトに記されてい
ました。人間は、生死を決定するような瞬間、脳内を活性化させる
ある物質がでてきます。そしてその物質の分泌により、脳が活性化
されて、死を回避するような瞬時の行動が起こせるようになるので
す。ストレスとは、人間や動物のそういう生理なのです。

ところが、その物質分泌が平常な時にも起きると、脳内は混乱しま
す。危険だ、回避しろ!!という強い衝動が、平穏なはずの現状認識
と大きな齟齬をきたし、深い精神的な混乱を来すのです。これがい
わゆるＰＴＳＤと呼ばれるものの姿なのです。

ＰＴＳＤの典型的な症状は、友人のようなものよりもむしろ、自分
が今、この場所で、この人と、この時間を生きているという感覚が
なくなってしまうようなケースが多いといいます。精神病理学の分
類に離人症というものがありますが、それに近いようです。蛇足に
なりますが、とどが敬愛する木村敏という精神病理学者はこの臨床
医としては世界的な権威であり、また、その臨床例に対する思索を
もととして｢異常の構造｣｢人と人との間｣などという、日本の哲学界
が絶えず瞠目するような著作を書き続けています。閑話休題。

とども、世界貿易センターに飛行機が突っ込むシーンが頭から離れ
なくて、しばらく気鬱を嘆じていましたが、時間とともにそれは薄
れました。そのことは以前、ここに記したかと思います。しかしそ
の人の誠実さは、その気鬱を自分で何とかしなければという強い思
いに駆られることで、さらに心的外傷の跡を深めていってしまうの
でしょう。その人は、そういう誠実な人でもあります。

数日前、その人から手紙が来ました。現在、カウンセリングに通っ
ているそうです。そのため、とりあえず年内は酒を呑まないように
するので、しばらくは会えないかもしれないけどよろしくという内
容でした。そういう人なんです。そして最後に、あのビルの映像を
見ても混乱しなくなったらまた連絡するという言葉が記されていま
した。その人の一日も早い回復を祈らざるを得ません。

なお、ＰＴＳＤについてのきわめて分かりやすく詳細なサイトがあ
りますので、最後にそのサイトをご紹介しておくことにします。今
日は、なんだか湿っぽい話ですいませんm(_ _)m

●ＰＴＳＤ.info http://www.angelfire.com/in/ptsdinfo/

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