飛翔への幻想

飛ばない飛行機たちがひっそりと静謐な時を抱えて沈黙して
いる。ものいわぬそのフォルムが美しい。天駆ける躍動の時
を持つことのなかった飛行機たちは、栄光の翼への憧憬も嫉
妬もなく、大空の夢を見て眠り続けているかのようである。

神話世界の天空を翔けようとしたのはギリシア神話が語るダ
イダロスとイカロス父子。モンゴルフィエ兄弟は熱気球によ
って初めて人の空へ駆け昇った。ツェッペリは飛行船を飛ば
し、リリエンタールはグライダーで空の海に游(あそ)んだ。

そして発動機に翼を与えて自在な空への飛行を可能にしたの
はライト兄弟だった。発動機はやがてジェットエンジンとな
り人の空はより高く、より広くなっていった。そして天空へ
の夢はいつしか成層圏を突き抜け、漆黒の闇ばかりを放つ果
てない宇宙へまで広がっていった。

翼は永遠に空の夢を見続けている。人工の光が埋め込まれた
天井の下で。そこに空はなく飛翔は約束されていないという
のに。だがなぜか、飛ばない彼らの姿から放射される色濃き
空への幻想。その幻想に触れて観る者は空への夢に酔いしれ
る。碧空を乱舞する翼たちの雄姿を偲びながら････。

その夢を破って、轟音一閃。目前の滑走路から新鋭機が飛び
立つ。快晴の空に向かって････。なるほど、飛ばない翼であ
る彼らの夢がどこの航空博物館より色濃いのは、ここがその
夢の揺籃ともいえる空港だったからなのだ。その空気の中で
翼たちは、さらに深く幸福な夢へと眠りに就く。

[データ]
〒480-02愛知県西春日井郡豊山町豊場
名古屋空港国内線ビル3F 電話 0568-28-6367
開館日／年中無休開館時間／9:00～17:00
入館料／大人500円･中高生300円･小人200円

国内でただひとつだけ、空港に設置された飛行機とロケットの科学館。
航空学の権威であった故木村秀政教授が選んだ名機を､航空機モデル製
作の名手田中祥一氏が1/25モデルで製作した精巧で美しい模型100機が
並ぶ｡フライトシミュミレータも体験できる。館内から旅客機、自衛隊
機､小型機、ヘリコプターをはじめとする各種飛行機の離発着が間近に
見え、空港全体が博物館ともいえよう。

[参考] 世界の航空博物館案内