氷鑑1

透き通った美しい氷がある。氷中に小さな煌(きらめ)きが見え隠れ
する。誘われて氷を見つめる。中には何が映り見えるのだろうか。
｢氷鑑(こおりかがみ)｣と題して、そんな世界を覗き込んでみたい。
ここにいう鑑とは、｢かんがみる｣というていどの意味である。

嗚呼!! オン･ザ･ロック

暖炉が赫(あか)い炎をあげている。遠くまで柔らかい暖かさを届け
てくれる赤外線のやさしい温もりに包まれながら、とっておきのウ
ィスキーの封を切る。飲り方はいつものオン･ザ･ロック。

なるほど、酒の海に浮かぶ岩か。それとも、酒は岩まで酔わせてそ
の海に漂わせるということか。ところで、オン･ザ･ロックには、難
破するという意味もある。呑みすぎて酒の海に浮かぶ氷山にあえな
く沈没する酔夢を表しているのかもしれない。

それにしても、なぜオン･ジ･アイスではなくて、オン･ザ･ロックな
のだろう。もっとも英語表記ではOn the Rocksと｢s｣がつく。

オン･ザ･ロックのいわれを繙くと、クリスタルにたどりつく。この
語はギリシャ語のkrystallos(クリュスタロス)に由来する。氷とい
う意味だ。またクリスタルは一般に水晶のことをさす。氷も水晶も
いずれも透き通った結晶である。よく似ている。

古代ローマ時代。アルプスで露出採掘された水晶を彼らは氷の化石
だと信じ､これを｢ロック･クリスタル｣と名づけた。氷の岩だ。氷が
さらに固まって石になったという意味なのだろう。

水晶のようにクリスタルな透明感をもつ氷を酒に浮かべる｡ロック･
クリスタルから名前をとってオン･ザ･ロック。ようやくその語源に
たどり着いた。ただ美しい由来を知ってみても、呑み過ぎれば、や
はり難破だ。嗚呼、オン･ザ･ロック!!

[2]へ続く