juryokurenzu

宇宙の奥深くから地球を見つめる瞳がある。そんな風に書け
ば、なんだかＳＦ小説の書き出しのようだ。しかし実際の宇
宙は不思議に満ちており、実はまるで｢宇宙の瞳｣とでも呼べ
そうなかたちを見せる現象がある。アインシュタイン・リン
グと呼ばれるものがそれだ。

広大な宇宙の中に浮かぶ遙か遠くの銀河をくぐり抜けて光が
地球にまで進む時、銀河の重力によって光が歪められてしま
う。こうした作用を重力レンズと呼ぶことはよく知られてい
る。このとき地球から見て銀河と奥の光源が一直線に並んだ
場合、重力レンズの作用によってによって銀河が光の輪に囲
まれたように見えることがある。これがアインシュタイン･
リングと呼ばれるものの正体である。

近年、竜座にあるB1938＋666という天体で、この完璧な現象
が起きていることが知られ、ハッブル宇宙望遠鏡がそのリン
グ状の姿を捉えたという。その映像を見てみたい。

重力レンズと呼ばれる作用は、実は宇宙に関するさまざまな
テーマを解決する重要なカギのひとつであると考えられてい
る。たとえば、宇宙の年齢や大きさの問題があるが、これを
計算するには通常、宇宙の膨張速度を決める｢ハッブル定数｣
と呼ばれるものが必要となる。ところが重力レンズによる光
の歪曲具合を観察することで、その定数をさらに正確に求め
ることができるようになるというのだ。

また重力レンズの観察は、光学望遠鏡や電波望遠鏡では直接
観察できない｢暗黒物質｣と呼ばれるものの観測にも役立つと
いわれる。暗黒物質とは次のようなものだ。

銀河は寄り集まって銀河団を形成しているが、現代の宇宙理
論からすると、見えている銀河などの総質量だけでは、実は
銀河団は形成され得ないと結論される。銀河個々の数を集め
た質量よりも、あまりに宇宙は重いのだ。

そこで考えられたのが銀河間に存在する暗黒物質である。こ
こから考えると次のようなことがいえる。銀河団全体の総質
量に対して、その90％以上が暗黒物質で構成されると考える
と初めて銀河団の成立が納得されるのだという。

暗黒物質が存在するかどうか、はたまたどの程度存在してい
るかを測定することは、現代の天体物理学が突きつけられた
もっともむずかしいテーマのひとつとなっている。

こうした宇宙のテーマの解明にアインシュタイン･リングが
役立つとすれば、それはまさに宇宙の彼方から永劫の時を見
つめ続けてきた｢神の瞳｣からの賜物ということになろうか。