蟻と恐竜時代

琥珀の中に閉じ込められた昆虫の存在は、マイケル・クライ
トン創作の『ジュラシックパーク』で有名になった。小説で
は琥珀の中に閉じ込められていのは蚊であったが、ニューヨ
ークのアメリカ自然史博物館にある琥珀の標本には蟻が閉じ
込められている。ただし上の写真は別物の参考画像である。

その蟻の琥珀化石は、1992年にニュージャージー州中部で発
見されたものだという。その化石の研究により、蟻の起源が
これまで推定されていた時点よりさらに8000万年もさかのぼ
ることが確認された。それはいつごろのことなのか。

蟻は今から5000万年ほど昔に突然大繁殖したことが知られて
おり、これまで蟻の起源はそのあたりだろうと考えられてい
た。恐竜時代の終わりが6500万年前といわれていることを考
えると蟻が恐竜とともに生きていたことにはならない。

ところがこの出土した琥珀の蟻を克明に調べてみると、なん
とそこに閉じこめられていた蟻は、これまで発生したと考え
られてきた時代より、さらに4000万年もさかのぼる時代のも
のであることが分かった。単純に計算してもおよそ9000万年
前に地表を動き回っていた蟻ということになる。これで蟻の
生存と恐竜時代とが重なることになった。

ところが、この化石の蟻をさらに調べてみると、昆虫の形態
学的な見地からいってかなり進化をとげたものであることが
分かってきた。そうした点から類推すると、蟻の起源自体は
さらに4000万年ほどさかのぼって、白亜紀初期あたりになる
のではないかと考えられるようになったのだ。

１億3000万年前ごろといえば、ジュラ紀に引き続いて恐竜が
栄えた時代である。とすると蟻は、このもっとも恐竜が栄え
たとされる白亜紀初め以来、恐竜と同じ時代を生きていたこ
とになる。これが蟻の恐竜時代生存説の根拠なのだ。

ところで進化のプロセスにおいて昆虫は、哺乳類とは異なる
進化系統樹のもう一方の枝において頂点を極めた生物である
といわれる。つまり、環境にきわめて適合した進化を遂げた
｢進化の成功種｣であるというのだ。

恐竜は２億数千万年の繁栄を誇った、まさに進化の大成功種
であったにもかかわらず、白亜紀の終わりに絶滅してしまっ
た。その理由には諸説があり、未だ確定されていない。巨大
隕石の落下という説や地核の中のＤ層と呼ばれるものが浮上
してきて地球各地に大噴火が頻々と起きたという説もある。

いずれにしても何らかの大きな出来事が恐竜を滅ぼした。と
ころが蟻は、そうした事態を乗り越えて現在にいたるまでの
生存と繁栄を手にしてきたのだ。

恐竜絶滅などのような大異変を｢大絶滅｣と呼ぶが、もしかす
ると、この大絶滅の時に森の陰でひっそりと生き延びた哺乳
類の先祖といわれる鼠のような生き物たちは、この繁栄する
蟻を餌として生き延びたのかもしれない。進化論の素人にそ
んなことを考えさせる、蟻の先祖たちの話である。