口紅と料理

私はヘビースモーカーである。愛煙しているのは軽い煙草だが
１日に数十本を吸ってしまう。そんなヤツが料理の話というの
は、おこがましいかもしれない。料理は味も香りも楽しむもの
だ。煙草を吸って荒れた舌に味なぞが分かるはずもないし、ま
た煙で料理の香りを台無しにする。そんなヤツである(^^ゞ

しかも香りという点でいえば、実は私は五感のうちのひとつで
ある嗅覚を欠いている。これは小学校時代に長い間患っていた
｢慢性鼻炎｣がもとになったらしい。嗅覚センサーは鼻腔の天上
付近に細いスリット状の入り口を開いていてそこから内側に袋
状のセンサー部を持っている。その嗅覚センサーの入り口が慢
性鼻炎の炎症で閉じてしまったらしいのだ。

以来、まったく嗅覚は感じなくなってしまった。ただ面白いこ
とに、嗅覚を失うまでに嗅いだことのある香りや匂いは記憶に
残っているらしく、味噌汁を見ると｢味噌汁の匂い｣を思い出す
ことができる。まるで嗅覚が戻ってきたかのように目の前の味
噌汁から香りが漂ってくるような気がするのだ。香りとは記憶
のメカニズムと密接な関わりがあるらしいが、その話はいずれ
またScience Categryででも記してみたい(^-^)

ところで煙草の話である。昨晩、とある料理人と酒を呑みなが
ら話をした。彼は、料理の修業を始めたときに煙草をふっつり
やめたという。親方からいわれたのだそうだ。たぶん当然の話
なのだろう。だが親方からはもうひとついわれたことがある。
それは口紅のことだった。

口紅をつけて料理の味見をしろと教わったのだという。思わず
膝を乗り出して話を聞いた。彼によれば、口紅をつけて料理を
味わうと料理が脂っぽく感じるのだという。たとえば赤マグロ
が中トロに変わるように。つけたては特にそうだと聞いた。

こうして、修業時代に口紅をつけて料理の味付け変化を覚えて
おくことは、女性向けのメニューを作る場合などには欠かせな
い訓練となっているのだろう。プロの話は興味深い。

男性の方は、もし口紅をつけた女性とご一緒だったら、是非と
も料理の感想を聞いてみていただきたい。同じ料理を食べなが
ら、実は違った味を賞味しているかもしれないのだ。これは、
料理における性差の文化論として面白い課題かもしれない(^^;