老人ホーム探訪

養護老人ホーム探訪

神奈川県横浜市旭区。その一角にある特別養護老人ホームさくら苑
は、日本で初めて、老人と動物が共棲する環境を実現したところで
ある。午後のひととき、建物中央部にあたる憩いのスペースに人々
が集まりはじめる。歓談の時間なのだろうか。

その歓談の場に、当苑の施設長である桜井里二氏に連れられて若い
ゴールデンレトリバーが加わる。ちぎれるように尾を振り人々の間
を忙しく歩き回る。そこにシーズー犬２匹が加わる。憩いのスペー
スすぐ脇にあるケージから誰かが抱き上げてきたのだ。犬は愛犬家
をよく知っていて誰がケージから出してくれるかも分かっている。
毎日同じフロアで暮らしている間柄だからだ。

抱き上げられた膝でじっとしている。動物があまり得意でない人は
歓談の輪を作りながら犬と他の人の楽しげな交流を眺めている。そ
の顔にほころびが生まれる。そんな犬たちとの午後の戯れは１時間
も続いただろうか。床に飛び降りたシーズーがいきなり窓辺にかけ
ていく。何をするかと思えばシャム猫の餌を盗みに出かけたのだ。
一人の老人が叱りながら犬を追いかけ始めた。

また、人の輪を離れたレトリバーが居室を訪ね歩くかのように廊下
をゆっくりと巡回する。誰かを捜しているのだろうか。その後犬た
ちは外へ出て戯れのひとときを楽しむ。そして２匹のシーズーは外
への散歩に出かけていった。

シャム猫は、ひとつの居室に入りびたりだという。猫好きのご婦人
２人に、まるで我が家の猫同様に可愛がってもらっているからだ。
抱き上げられてもむずがらないで気持ちよさそうにしている。

時に表へ散歩に出たくなれば、その意思表示をするだけでご婦人が
戸を開けてもらえる。ホームのベランダを、こちらを振り返り振り
返りゆったりと散歩に出かけた。聞けば、ご帰還の際には戸の前に
座ってミャーと鳴くのだという。ご婦人がちゃんと戸を開けてくれ
ることも先刻承知である。

午後のひととき、歓談の輪の中ではしゃいでいたシーズーたちは餌
をもらうことに夢中だ。輪の中を忙しく歩き回る若いレトリバーの
ほかに、玄関脇にはいつも静かに身を横たえている老犬のレトリバ
ーもいる。静かに余生を暮らしているおもむきである。

このホームには、各階に人間より大きく作り上げられたぬいぐるみ
がある。動物たちと遊びたくて訪れる子どもたちのために用意され
ているものなのだろうか。その遊具で子どもたちと遊びながら、ま
たお年寄りたちは元気を取り戻すに違いない。