マイクロマシン4

マイクロマシンが拓く新たな世界
先に、マイクロマシンのＳＦ的利用例として『ミクロの決死圏』に登場する血管内を自由に行き来するミクロ潜水艇を挙げた。この映画に先立つこと数年前に、故・手塚治虫氏が漫画で同一シチュエーションの物語を描いている。マイクロマシンには医学的なイメージが強いのかもしれない。だが、医学の世界にマイクロマシンが登場する日はそう遠くなさそうである。考えられているのは｢マイクロ血液分析システム｣である。これはマイクロ針、マイクロポンプを組み合わせた｢流体マイクロマシン｣で内部にマイクロセンサによる微量血液分析システムを備えている。針の太さは50μm程度。これなら蚊が刺した程度で痛みがない。しかも採血はごく微量ですむ。マイクロポンプで吸入した微量血液をマイクロセンサで血液分析するのだ。大量生産で安くつくれるなら使い捨てにすることもでき、エイズや院内感染等から医師・看護婦や患者を護る。採血に伴う針で医師や看護婦がけがをする例は決して少なくないのである。加えて、分析結果に応じて微量の薬剤を投与するマイクロポンプを搭載すれば常に患者を良好な状態にコントロールすることもできる。血糖値の分析に対して微量なインシュリン投与を行うシステムであれば人工膵臓の役割を果たすことになる。上述のマイクロ血液分析システムは体外で使われるが、下図のマイクロマシンは複雑な人体内に挿入され、単に患部を観察するだけでなく、検査や治療を行うものである。その先には、マイクロポンプなどのマイクロマシンとともに、ミニチュアマシンの稼動部が取り付けられるようになるだろうと考えられている。
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	能動内視鏡の先につけられたマイクロマシン消化管の中で働く能動内視鏡。先端にＣＣＤカメラや各種センサ、ヒーターやポンプ、さらには舵取り機構が備わっている。舵取り等をはじめとするアクチュエータには、代表的な形状記憶合金であるチタンニッケルが用いられる。体内に入ることを考慮した場合、この金属は生体適合性が高く極めて都合がいい。１２３４５６７８９０１２３４
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近年発達し続ける情報機器の分野でいえば、情報を蓄えるディスク装置にも応用が可能だ。最新技術ではすでに原子一個の有無を検出したりこれを操作することが可能となっている。これを応用すれば原子を情報の担い手とした微小ディスク装置、もしくは小型で膨大な記憶容量を持つディスク装置もつくることができよう。その際、情報読みだし短縮のために多数の読みだしヘッドを集積する必要があるが、これについては半導体で蓄積されたマイクロマシーニングの技術が有望である。また高密度情報をトレースするためには高精度トラッキングが求められるが、これに対しても、マイクロヘッドと一体化されたマイクロアクチュエータが大きな役割を果たすことになるだろうといわれている。かつて金属疲労によるひび割れが要因で起きたといわれる飛行機事故がいくつもあった。またプラント等におけるパイプの腐食等も事故につながりかねない。そこでこうした巨大なシステム内に多数の自走マイクロマシンを送り込めば、狭いところに入り込み、互いに検査領域を確認しあいながら全体をくまなくチェックしていくことが可能になるという。ひび割れが全体の振動を変化させて発する超音波、腐食割れから発するイオン等、さまざまな信号をセンサで探しながら自走し、これを内蔵の通信モジュールでセンターに信号発信する。巨大システムの中を、まるで人体の免疫系におけるリンパ球のように働いて走るマイクロマシンも夢ではないのだ。
[5]へ続く