お菓子ものがたり-金太郎飴

なんだか苦手だった。彼のことが。学校の帰り道にあった空
き地で、彼はいつも下級生やら同級生を大きな声で統率して
走り回っていた。だからいつも、下を向いて空き地をやり過
ごしていた。その間、わずかに十メートル前後。

ところがその日、空き地には彼しかいなかった。彼は空き地
の隅にある土管の上にぽつんとまたがっていた。なぜか引き
つけられるように彼のほうを見つめてしまった。彼からもば
つの悪そうな視線が返ってくる。

と、突然彼が、ポケットから何かを取り出し、僕の方に歩い
てくる。僕の前まできた。｢なんだお前もかよ｣。いつもの彼
の闊達な笑顔とは違う、ちょっと照れくさそうな寂しそうな
笑顔で手にもったものを突き出してきた。つられて僕も、硬
い笑顔を返しながら、それを受け取った。白い棒状のそれは
｢さらし飴｣だった。節句の残りものの金太郎飴である。

その日、学校はそろって遠足の日であった。実は二人ともバ
ス酔いが激しくて遠足を欠席したのだ。転校生であった僕が
彼と空き地で遊ぶようになったのは、その時からだった。